そろそろ僕のお終い(おしまい)の時だ

「 そろそろ僕のお終い(おしまい)の時だ 」

そう言うと、赤トンボは森のベンチに静かに降り、羽をたんたんと、それはそれはとても丁寧にたたみ始めました。
神さまから頂いたわずか30日の命でしたが、赤トンボはそれでもたいそう満足していました。
それもそのはず、大抵の仲間たちはツバメやスズメやカマキリに食べられてしまったからです。

「あぁ、今日を無事に迎えられてよかった。そろそろお終いにするよ」

そう言い、赤トンボは身体の真ん中の芯から、ゆっくりそして静かに力を抜き、命のお終いの準備を始めました。
それはまるで炎が消えかかった燐寸(まっち)のように、最後の灯をゆらゆらと揺らす、とてもゆっくりでとても静かな行いでした。

やがて命が終わりかかったその時、森の樹々が一斉にササアと道を開き、この世のものとは思えないほどの真っ赤な光を天の頂きから赤トンボめがけて射し出したのです。

「あぁ、すごい・・・なんてきれいな光なんだ、山が真っ赤に萌えているよ」

赤トンボの大きな目には真っ赤な空がいっぱいに広がりました。横たえたその身体は前にも増して紅く紅くどこまでも深く染まりました。

「最期の日にこんなご褒美の空を見せてもらえるなんて、僕はなんて幸福なトンボなんだろう」

か細い声でそう呟きながら、赤トンボはちっちゃな涙の一雫をぽとんと流しました。

やがて静かに瞼が閉じられ、命がそのようにして音もなく終わると、空は最期を讃えるかのようにいつまでもいつまでも黄金の光を放ち続けていました。

(「幸福なお終いの風景(ネムラの森)」改定版より)

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