たかが蟻だよ

[ たかが蟻だよ ]

打ち合わせに遅れそうになった僕は
マンションの階段を勢いよく駆け降りた

2階に差し掛かったところで
一匹の蟻が歩いているの気がつき
慌てて避けようとしたけれど間に合わず
僕は蟻を踏んだ

足元を覗いたら蟻は息絶えていた

たかが蟻だよ
しかも一匹だし

それでも心の中で「ごめん」と呟き
そのまま階段を駆け下りた

たかが蟻だよ
しかも一匹だし
それにちゃんと謝った

マンションを出て長い坂を駆け降りながら
なぜだろう
違和感を感じた
蟻を踏んだから?
殺生したから?

でも
たかが蟻だよ
しかも一匹だし
それにちゃんと謝ったよ

駅について電車のシートに腰掛けて考えてみた

僕らの概念とやらは
人間社会に生きる事を前提としたもので造られている

しかし蟻は
そんなこざかしい概念よりも
今を生きる事だけに全力でいる

その違いを
僕の中の誰かが僕に伝えるために
違和感という振動を
起こさせたのかも知れない

たかが蟻なんだから
人間社会では謝らなくてもいい程度の
なんて事ない出来事だけれど
命という概念に立って考えれば
それは謝っても済まないことなのかも知れない

僕らは果たしてありの様に
「命」に生きているだろうか
明日も明後日もこの先も
ずっと生きている前提で今を生きてやしないだろうか

たかが蟻
でもついさっき僕に踏まれて一生を終えた

たかが蟻だよ

しかし
僕らも
たかが人間だよ

揺れる中央線に身を委ねながら
ちょっとマジになってしまった

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