旅の最終章

音もなく仕舞われてゆく山の稜線を眺めながら
僕はこの旅の最終章をどう締めくくろうかと
流木で無造作に結われた椅子に腰を落とし
この旅で出逢った数々の奇跡を思い出していた

身の丈を覆うほどの深い雪に覆われた
大雪山の獣道

朽ち果て未踏の森の屍と化した
老木の切株

白い地平線を真っ直ぐに横切っていった
カモシカの痕跡

母を呼ぶ小狐の
森の眠りを引き裂く悲しい鳴き声

大地に染み込んだ水が谷を鋭くえぐった
数十メートルもの氷壁

そして
ゆっくり時を刻む
森の時計

言葉で語るには軽薄すぎる
一つ一つの奇跡が
この旅のラストシーンを
フラッシュバックする

なぜ僕は再びこの地を訪れたのか

初まりは都会の呪縛から離れたいと言う
如何にも薄っぺらな動機だったが
今では帰る処になっている

都会はボクの思考を歪ませる

浅瀬で漁を強いられた人々が
水銀に毒された魚を口に運ぶ
命の源も告げられぬまま
薬漬けされた肉を頬ばる
複製された森に癒しを求め
電磁波に脳を蝕まれながら
過ぎてゆく時すら眺める事が出来ない

それは
声の大きな者
力の強い者によって
生と死をコントロールされているからだと
誰も知る由がない

人が、一人の命として
命が、一つの魂として
魂が、輪廻の証として
存在と尊厳を誇り
生と死を謳歌するための法則が
この地にはある

その確かさを試すかのように
幾度もこの地を訪れ
不器用ながら随想録を綴ってきた

気がつくと
つい先程までうつらうつらしていた山々が
優しい寝息を立て始めていた

起こさぬよう
声をかけずに
このまま東京に帰ろう

旅はまだ続く
最終章を書くにはまだ早い

(作品「旅の最終章」より)
2017@北海道大雪山

関連記事

  1. リピオの星の物語

最近の記事

  1. 2018.08.24

    旅の最終章
  2. 2018.08.24

    写真先輩論
  3. 2018.08.22

    僕らの誇り
PAGE TOP