「さらさらと流れた一日」

朝。

起きたての僕は目くそをつけたまま、相棒の先生(ボストンテリア)と一緒に
テラスでインスタントのネスカフェを飲みながら、産まれたての太陽を両手いっぱいに出迎えた。

青と赤と紫が空一面を覆っている。

少し肌寒いけどネスカフェ飲んでるから大丈夫。
ちなみに先生はネスカフェは飲まない。
(犬だから。)

彼女は奥の寝室で静かな寝息を立てて眠っている。

寝息だ。
決してイビキではない。
(言葉は選ぶ性格だ)

我が家は、北海道の富良野の森の中の一軒家だから周りに民家はない。

だから好きな曲を好きな音量で流して、何度もリピートしながらゆったりと、まったりと過ごす。
演歌とROCKは聴かない。
EXILEもキャリーパミュパミュも聴かない。
TSUTAYAないし。

だんだん空が紫色なり、その一部始終を見届ける。

少しづつ目が覚めてきたら顔を磨いて歯を洗って、キッチンに行ってパンとハムサラダとスープと目玉焼きを作って、庭の大きなテーブル(ブナの無垢材)で食べる。

テーブルは食べない。
彼女はまだ寝息を立てて寝ている。
いびきじゃない。
もう一度言う。
いびきではない。
それと、寝る子は育つから起こさない。

起こすと身が危ない。

辺りが明るくなってきたら、ソラと言う名のカメラを持って、家の隣の草原を散歩する。

この草原はどこまでも果てしなく続いている。
太陽もここで起きてここに眠る。

どこまでも足が短い先生と一緒に散歩するのでゆっくり歩けて良い。
散歩では風鈴花に滴る朝露の子どもを撮ったり、目覚めたばかりで目くそをつけたままヨロヨロ歩く蟻や、姿勢の悪いダンゴムシを撮る。
ダンゴムシはよく見ると意外にキモい。
だから蝶の写真でここはごまかす。

よく蚊に血を奪われるので北見のハッカスプレーは必須。
先生も刺されるのでかけてやる。
たまにわざと鼻にかけてみる。
すると怒る。
(犬は短気だ)

帰ってきたらシャワーをあびる。
熱い湯には入らない
ふやけるから。
先生はそのまま家に上がると彼女に怒られるので、洗い場で自分の足をせっせと洗う。(先生も彼女が怖い。)

そうこうしていると、やっと彼女が起きてきた。
目くそはついていない。
彼女にパンとコーヒーとサラダと目玉焼きを差し出す。
あぁ僕はまるでしもべだ。
まぁ平和だから良い。

洗濯物をかき集め、洗濯機に入れてスイッチオンする。
彼女のパンツとボクのパンツが洗濯機の中で絡まり合う。

なぜか無性に申し訳なくなって謝りたい衝動にいつも駆られる。
ボクはいい人だと思う。

午前中は、撮りためていた写真の現像を背中丸めてせっせとする。

別のスイッチがはいったらそのまま言葉をつける。
仕上がったら編集者に送信する。
鬼瓦の様な顔をした編集者の驚く顔が見て見たい。

それと来月はボクの個展が札幌で開かれる。
その準備もせっせとする。
ちなみに前回の個展の様子はこんな感じ。
なかなか良いじゃないか

こちらは旭川の駅前に貼られたでっかい写真。
何気なく自慢している。

こちらは全国で発売中の写真集。
シリーズでもう12巻目となる。
これも自慢だ。

ひと仕事終えたらサザエさんっぽく洗濯物を干す。

やっぱりボクは彼女のしもべだと思うひとときだ。
洗濯物を干すときはルールがあり、最後に両手でぱんぱんと叩かなくてはならな
い。
先生はこの音が怖いらしい。
叩くたびに吠えるので、それはそれでまた楽しい。
「ぱん」
「ワン」
「ぱん」
「ワン」
その不思議な音が森をこだまする。
そして彼女と一緒にミニに乗って街に出る。

もちろん先生も一緒だ。
白いミニクーパーはかわいい。
先生に似ている・・・

ちなみに、先生にはリードがない。
なくても先生はいつもボクの側にいる。
ボクはご主人様だから。
ボクにもリードはない。
でも彼女はボクのご主人様ではない(と思いたい)
ここで話はブッ飛ぶが、実はもう一台車を持っている。
このキャンピングカーだ。

鋼鉄製のダンゴムシではない。
これは大変重宝している。
なんてったって宿代が一切かからず、しかもチェックインしなくていい。
いつかこれで日本中の森を探検して、ニングルを見つけ出して写真におさめたいと思っている

ニングルって誰? 
この人。

ミニで街のいつものカフェ(椎の実)に行き、アメリカンコーヒーとショートケーキを頼む。
彼女は紅茶を頼む。葉っぱにうるさい。
先生は水。(たまにケーキの残り物のイチゴをあげる)
先生は残り物をもらってもプライドがないから文句も言わず尻尾を振って喜ぶ。
犬だから。
ボクはプライドがあるので残り物だとちょっと傷つく。
人だから。

一人の時はこのカフェでまだ作品にしていない写真を見ながら、言葉を考える。
彼女がいるときは芸能三面記事の話を聞かされる。
面倒だが、平和だから我慢する。

一時間ほど過ごしたら、隣の無農薬八百屋さん(八助)でレタスと野菜とパンとコーヒーを買って家に戻る。
コーヒーも売っているナイスな八百屋なのだ。

ついでに養鶏場の五郎さん家にもより、卵を分けてもらう。
鶏のウンコがおまけで付いてくる。

帰る途中、風が気持ち良かったら猫又池のほとりを散歩する。

この時間がたまらなく好きだ。
 ちなみに週末は必ずここでカヌーをしている

(蚊除けスプレー要持参)

家に戻り編集社から届いたメールをチェックする。

メールがない時は現像室にこもる。
唯一ボクしか入室できない聖地だ。

この間、先生は寝る。

これはヌイグルミだ。
それにしても先生のイビキは無呼吸症候群を彷彿とさせる。

一方彼女は、鼻歌を唄いながらルンバの後を追いかける。
この彼女の鼻歌を聴きながら仕事をする時間が、ボクの大のお気に入りなのだ。

ランチの時間。
特製の森盛りサラダと焼きたてのパン。
そして挽きたてのインスタントネスカフェ。
もちろんテラスで食べる。
テラスは食べない。

たまに足の長い虫も「おじゃまします」と言いながら、ヘラヘラすり寄ってくる
が、ご遠慮いただく。
招待してないし。

お腹が膨れると眠くなる。
人間だから。
先生も同じだ。
犬だから。
先生と大の字になって昼寝をする

二人ともお腹は出さない。
冷えるから。

彼女は自分の部屋でFacebookしてる。
イイねの数が気になるお年頃。

起きたらそのまま散歩に出かける。
すぐ隣の森だから本当に三歩で着く。

そこで横になりゴロゴロする。
先生もゴロゴロする。
たまにゴロゴロが白熱して競争になったりもする。
エスカレートすると真剣勝負にも発展する。
そして家に戻ると決まって叱られる
「ゴロゴロするときはデニムはいて!」
よく見ると白いパンツが草色に染まっている。
デザイン的には好きだ・・・

夕飯は庭で食べる
ほとんど彼女が作る。
彼女は料理が得意だ。と言っている。
主に肉料理が得意。
とも言っている。

あっという間に作る。
素晴らしく効率的に作る。
たまに生焼きだ・・・
できたらレアは避けたいが、小心者だからボクと先生は彼女には言えな
い。
後片付けも気が向けば彼女がする。
気が向けばだ。

ランプの下での夕食はムードはあるが、たくさんの虫たちが、これまたお誘いしていないのにぞろぞろとやってくる。
虫たちには謙虚さが足りない。

お風呂の時間は楽しい。
ボクは先生と一緒に入る。
入るといっても先生は湯船には入らず、腰を色っぽくクネクネしながらシャワーを浴びるだけだ。
変わった犬だ。

友達が遊びに来た時は庭にドラム缶を置いてドラム缶風呂を楽しむ。
満天の星を眺めながら熱い湯に浸かると、大抵の友達はこんな顔になる。

(写真は知らないおっさん)

しかし野原をチンポコだして駆け回る友達のお尻は見たくないと常々思う。

(写真は知らないおっさん)

僕は中国から取り寄せたロケット花火に火をつけ
奴らの尻めがけて一斉に尻撃ちをする。
これがとっても爽快でやめられない!!
うん、これこそまさに至福の時間だ、

ちなみに、彼女は過去一度もドラム缶風呂に入っていない。
「草の陰から虫が覗いているから」が理由らしい。

たしかに・・・。
だから女性専用のドラム缶風呂だけは厳重に囲いをつけてある。
(女性の尻撃ちはしないが・・・)

夜はゆったりソファで寝転がって過ごす。
朝も昼もゆったりだが夜もゆったり過ごす。
小さいが暖炉もある。
冬は暖炉に火を灯す
夏は灯さない。

たまに縁側のタライに氷を入れた水をはり、足をつっこんで涼む。
先生は足が短いので入れない。
かと言って悔しがっている様子はない。
犬だから。

夏と秋は友達を呼んで庭でチェロの演奏会を開く。

実は、非公開だがボクはチェロを世界一下手に弾ける人だ。
もちろん入場料は取らない。
取れる雰囲気ではないから。

夏の暑い夜は蚊帳を張ってはしゃぐ。

当然、まくら投げもメニューどおりこなす。
先生はいつも彼女の標的になり、蚊帳の中で追いかけ回される。
犬に生まれなくて良かったと思う瞬間である。

そして11時。
星が夜空を忙しく駆け巡る頃、

良い子は寝る時間。

二人と一匹の良い子たちは、川の字になって寝る。
たまに誰が真ん中になるか、とか、誰がオナラしたッ、とかでささやかで真剣な言い争いもする。
彼女のイビキと先生のイビキが、近頃やっと気にならなくなった、
そんな安息の時である。

遠くから小川のせせらぐ音。
時折、風が窓をノックする。
隣から聞こえて来るグォーとゴォーの地響きも。

そうやって
少しづつ
少しづつ
二人と一匹は深い眠りにつき
さらさらと流れた一日が終わる。

こうして何もない一日がさらさらと流れていき、やがてみんなとサヨナラする
時が訪れて、それでもさらさらと流れていき、何もなかったかのように
人生を閉じるボクは幸福かもしれない。

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